book review back     book review top    book review forward

◆製本された本の手触り,味わっていますか?◆


 現在の日常生活の中で,パソコンやスマートフォンなどのIT機器を散々触ったあと,ふと紙の本に手を触れると,ほっと安堵するような感覚を覚えるのは私だけでしょうか?
 IT機器は画像・映像や音声でおもに視覚や聴覚に訴えてくる媒体ですが,紙の本はどうでしょう。文字や絵柄を見る目,紙をめくる音を聴く耳,それに加えて紙の手触りやインキの匂いと,さまざまな感覚を刺激されながら人は読書をします。読書という古くからの習慣のせいなのでしょうが,本に触れるときに込み上げる懐かしさには,人間文化の根源の一端を見るような気がします。

 さて,そんな風に五感を刺激する本を作るために大事な要素の一つが「製本」です。ページをまとめて綴じ,本の形にすることですが,印刷技術と同様に時代によって製本技術も進化してきました。
 いま印刷業界ではデジタル印刷の勢いが増してきていますが,同時に業界の方々が注目しているのが製本です。新しい技術が続々と生まれてきていますが,こんなときだからこそ,そもそも日本の製本技術はどのよう発展してきたのか振り返ることも必要かもしれません。

 そこで,書籍『製本探索』を紹介します。これは装丁家兼製本マニアの著者が,日本の近代製本史を文献と実物資料の両面から丹念に探ったもの。幕末明治の初期洋装本から現代のベストセラーまで幅広く取り上げたほか,これまでほとんど着目されることがなかったフランス装や南京綴など「傍流」の製本史までを調査・収録しています。また,廣橋湛然氏が昭和8年に考案した“元祖あじろ綴”とも言える製本方法の実用新案登録証など,新たに発見された大変珍しい資料も紹介しています。
 製本マニアの方だけでなく,実際に製本を手掛けている方々,出来上がった本を触るのが大好きな方々にぜひ読んでいただきたいと思います。
(2015.2.2)

 
『製本探索』
大貫伸樹 著  A6判・上製本 176ページ 本体1,800円+税

購入ページ

book review back     book review top   book review forward

go home


(C)2004 Insatsu Gakkai Shuppanbu Ltd.
All rights reserved.